はじめに
前回ブログで、第2回景観整備機構指定勉強会の「景観・まちなみとは(事前資料WEB記事)vol1」を掲載しましたが今回はその続編になります。
本記事では、第2回景観整備機構指定勉強会の内容について学習するためのコンテンツになります。事前にお読みいただき、当日勉強会の方を視聴していただくと理解の深さが変わるかと思いますので、是非ご一読ください。
vol2では、前々回記事「次の勉強会で伝えたいこと」で記載していた下記の内容と、前回記事「景観・まちなみとは(事前資料WEB記事)vol1」で取り上げた内容の続きに触れてみたいと思います。
- 良い景観やまちなみはどんなものか
- その良さを感じる理由や要素を見つけ出す手法やスキーム
- 判断基準などのノウハウ作成やその目利きができる人材育成
良い景観やまちなみはどんなものか
前回記事の中の「とりあえず身近にある景観をみてみる」の項では、景観は、身の回りにあるものであり、意識無意識にかかわらず普段感じているものという内容がありました。
また、より意識する場面(その時に意識的に強く感じたり、はっと気付いたりする時)において、心が揺さぶられている時に景観を感じ、そこにはそれぞれの嗜好や心理が働くため、同じ景色を見ても感じ方にはばらつきが出ることに触れました。
ですが、ばらつきがある程度の範囲で同じ感覚の集合になると、その人たちより「この景観は良いねー」と話題にあがり、その場所へ訪れたり、そこの写真を撮ってインスタグラムなどのSNSで公開したり、そして、その写真をみて「いいね!」がたくさん押されてバズったりするわけです。
※インスタグラム(Instagram):写真共有アプリケーションであり、いろいろなフィルター機能を使って写真や動画を手軽に投稿できる。若者を中心に全世界で5億人以上のユーザーが利用している。日本では、インスタグラムに投稿する写真として見栄えが良いと「インスタ映えするねー」(映える:ばえる)というかんじで話題になっている。
ハッシュタグを利用することでさまざまなジャンルや写真を簡単に検索できるので、ファッションやグルメといったトレンドの情報源として利用する見るだけのユーザーも多い。また、多くのフォロワーをもっているユーザーはインスタグラマーと呼ばれ、強力な宣伝・広告効果をもっているので、個人や企業のアカウントの発信力を高めることを目的としたSNSマーケティングサービスも存在する。
※バズる:「バズ(buzz)る」は、「Buzz(バズ)」というマーケティング用語といわれている。 「Buzz」には「ハチが飛び回る音」を意味し、1か所に集まり音を立てている状態を指す。
どんな景観でみんなが反応しているかは、いろいろな話題になっている場所などの雑誌掲載写真や、インスタなどのSNS記事での「いいね!」などの数などでトレンドを掴むことができるといえます。
そのジャンルは多岐に渡り、自然の景色や街中の通りの景色だけでなく、お祭りなどひとの活動も景色として認識されています。身近なところでは有志の活動で「かながわ建築設計大山講」の活動にて、大山詣りをする際には法被を着て実施をしていますが、その姿が大山の景観要素の一つとして受け止められています。
自然の景色としては、富士山など山の景色がメジャーかと思います。例えば、少し視点を変えた富士山の見方として、新幹線からの富士山の景色などは出張で新幹線を利用する人にはお馴染みかと思います。
新幹線をよく利用している方でしたら、この三島近辺からの富士山が「かっこいい!」ことをご存知かと思います。また、雪化粧している富士山であることや、雲がかかっていることも多い中、快晴での富士山というのもポイントになるかと思います。
このケースの場合、視対象が「富士山」ですが、視点場が「新幹線」という移動しているところも特徴的です。これは、前回記事の中の「とりあえず身近にある景観をみてみる」の項で、次のような視対象と視点場について触れた内容ですね。
- 視点場(視る時に立つ場所)
- アングル(画角)
- 時間と環境(太陽光の状態(分光分布など)、大気の状態(透過率、雲量雲高など)、そのほか)
- 視対象(この場合一番大きい要素は富士山)
ところで、この富士山の景色の例では新幹線の車中からみているため、視点が動く状態になっています。このように視点場が移動する状態によりつぎつぎと光景が変わること(富士山も見る角度(アングル)が変わっていくので変化している)をシークエンスな景観と呼ばれたりしており、歩いていたり乗り物に乗っているときに起きる事象になります。
このシークエンスという言葉は、英国の建築家で都市景観理論の中心的存在であった都市・景観デザイナーであったゴードン・カレンの著作「都市の景観」(1971)の中で見ることができます。本書の中の「連続する視覚(SERIAL VISION)」の項の中で、「地図上のまちなみを一定の速度でたどると、つぎつぎに新しい光景が開けてくる」と述べているように、移動することで変化していく光景(シークエンス)の分析を試みています。
日本では、高速道路の開発で安全性なども踏まえてシークエンスについての研究がされてきていた経緯があり、シークエンス景観の研究は実は建築よりも土木分野で先行していました。なので、景観に関する専門書は土木分野で多くみられます。
たしかに、運転中の景色の変化は眠気を防ぐ上で重要ですね。景色良すぎでよそ見運転もまずいですが・・・(笑
おまけで、違うアングルからのシークエンスな富士山の景観をご覧ください。
さて、ではもう一枚写真をご覧ください。
こちらは神奈川県相模原市緑区にある城山湖からの中遠景になります。
城山湖についてですが、昭和40(1966)年、純揚水式の城山発電所建設にともなって、境川支流、本沢渓谷に上池として誕生した「本沢ダム」の人造湖で、「かながわの探鳥地50選」や「かながわの公園50選」にも選定されています。湖の周囲には散策路が設けられており、休憩所では城山湖と相模原の町並みが一望できる、人気の散策スポットです。
このように幅広く一望できる見え方はパノラマビュー(博物館なのでの展示の場合はパノラマ展示)と呼ばれます。なお、ほかの見え方(展示の仕方)としては、地形模型などのように立体的に見えるジオラマビュー(ジオラマ展示)と、人物などの彫刻が真ん中にどんと置かれていろいろな方向角度からみることのできるアイランドビュー(アイランド展示)があります。
撮影地点は標高約300mの高さになり、中景として山と一部のひらけた地面がみえます。おそらく、みた瞬間はここに目がいくかもしくは遠景となるまちと森林の境の水平ラインあたりに目がいくのではないでしょうか。
では、少し視点場が移動していますが、ほぼ同じ状況である龍籠山の展望台からの遠景を見てみましょう。
少し曇っていますが、こちらの方が遠方まで認識することができ、やや左側の遠方にスカイツリーも見ることができます。視線の高さ的に、はじめに目がいくのが手すりの天端か森林の水平ラインになるかもしれません。ここで手すりを手で隠してみるとどうなるでしょうか。はじめに目がいくところが、おそらく遠くの建物と空の辺り、いわゆるスカイラインのあたりになるのではないでしょうか。
このように、視角に入ってくる要素によってはじめに目がいく先は変わります。
では次に、アングルについて見ていきたいと思います。
湯河原町には千歳川(上流は藤木川)と新崎川がありますが、この写真は千歳川下流になります。上流に行くと奥湯河原の景観がたくさんあるのですが、その辺りのご紹介はまた後ほどということで。
さて、この写真は方向性を感じることができるかと思います。視線が川の上流に向かっていき、奥の建物の足元あたりに誘導されていく感じかと思います。
これを見える化すると、次のような赤線を入れることができます。
このように、1点に向かって線を引くことができ、これを「1点透視法」といいます。
これをうまく意識すると、アングルがうまく決まります!
なお、千歳川は本記事掲載時点で桜の見頃になってきています。
1点ということは2点もあるのかとなりますが、そのとおりでしてあります。
こちらは神奈川県立近代美術館鎌倉館になります。
神奈川県(1951年) 設計:坂倉準三
「鎌近」の愛称で親しまれてきた美術館です。設計者である坂倉準三がフランスから帰国して、日本で事務所を開設後ひとつめの作品であり、また、日本では初めての近代美術館になります。詳しくは下記ブログなどご参照ください。
さて、こちらの写真の2点透視がどのようになっているかというと、先ほどの1点透視とあわせて次のような感じになります。
このように、1点透視にするか2点透視にするかと、水平ラインをどのあたりにするかでアングル(構図)の基本はバッチリです。あとは垂直ラインを斜めにしないように意識してあげると完璧!なはずです(笑)
なお、あえて垂直ラインを斜めにする手法をカメラマンの業界用語では「あおる」といったりしています。
いろいろとここまで書いていて改めて思いますが、写真というのは景観との親和性がすごく高いことがよくわかります。
その良さを感じる理由や要素を見つけ出す手法やスキーム
さて、写真でいくつか景観の例をご覧いただきましたが、説明の中で次のような景観要素とキーワードを取り上げました。
- 自然(の景色)
- 街中の通り(の景色)
- お祭りなどひとの活動(の景色)
- 視対象(視る対象)
- 視点場(視る時に立つ場所)
- アングル(画角)
- 時間と環境(太陽光の状態(分光分布など)、大気の状態(透過率、雲量雲高など)、そのほか)
- シークエンス(移動することで変化していく光景)
- 近景、中景、遠景
- スカイライン
- 水平線
- パノラマ
- ジオラマ
- アイランド
- 1点透視法
- 2点透視法
また、項をわけるつもりが、写真からそのまま要素を見つけ出す手法スキームを一緒に書いてしまいました。まあ、そのほうがわかりやすいだろうということで・・(笑)
判断基準などのノウハウ作成やその目利きができる人材育成について
ここまでみてきたように、景観をみていく時に判断基準とする手掛かりは割と多くあり、また、基本的には難しいものでもないかと思います。
ただ、それらを整理して景観をみていくための一連の流れをフロー化するなど、ノウハウ作成されている資料が割とないところが課題な気がします。個別に景観調査をしている情報などを入手はできますが、意外とバイブル化されたものは少ないようです。
その中でもいくつか出版されている書籍があり、景観にかかわる調査など実務的な内容で自分が参考にしている書籍をいくつかご紹介しておきます。
- まちづくり教科書 第8巻 景観まちづくり 日本建築学会 編(丸善出版)
- 景観計画の実践 事例から見た効果的な運用のポイント 日本建築学会 編(森北出版)
- 住まいと街をつくるための調査のデザイン ーインタビュー/アンケート/心理実験の手引きー 日本建築学会 編(オーム社)
- 景観法と景観まちづくり 日本建築学会 編(学芸出版社)
よくみたら、すべて日本建築学会の編集というところが資料の幅が広がっていないことを示唆しているのかもしれませんね。当委員会で頑張るか!?(笑)
「いやいや、こんな良い書籍や資料あるよ!」という方がいらっしゃればぜひおしらせください!
そして、これらの知識やノウハウを習得し、実際に活動していくためには人材が必要になります。
知識についても、景観のことだけ知っていても実務運用としては片手落ちであり、維持保全のためのマネジメント分野や権利関係や関連法令規定、不動産分野の知識や技術が必要になります。「建築士の持つ高度な専門知識だけでは建築設計事務所の経営はできない」のと似た感じ、とも言えるでしょう。
当委員会では、このようないままでのフィールドワークなどして「ここの景観がいいね」「こんな要素があるから良いと感じるのね」、という景観の入り口からそろそろもう一歩踏み込んで実務上のディープな世界に足を踏み入れていきたいと考えています。つまり、「景観・まちづくりの実務」としての業務を考えていくことにもなります。
さいごに
今回はvol2ということで、vol1でとりあげた
- 良い景観やまちなみはどんなものか
- その良さを感じる理由や要素を見つけ出す手法やスキーム
- 判断基準などのノウハウ作成やその目利きができる人材育成
の3つについて基本導入編的に記事にしてみました。
「判断基準などのノウハウ作成やその目利きができる人材育成」については、委員会での取り組みで具体的に何ができるのかを考えていく予定です。
次回は、前々回記事「次の勉強会で伝えたいこと」で記載していた「維持保全・運用(経営)などのマネジメント分野」と、「不動産価値や税務面などを含めた不動産分野」について触れてみたいと思います。
お申し込み詳細はこちらから
https://j-kana.net/items/6010e7ad6728be2def2c11bc
初稿2021年3月23日